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「いしかり」-その魅力は変わっていなかった
写真・文:idyllicocean
冬の苫小牧港の「いしかり」  1998年は日本のカーフェリー業界にとってろくな年ではなかった。明石海峡大橋の開通と共に数多くのフェリー航路が減便、廃止に追い込まれたことに加え、長引く不況の影響で長距離輸送貨物も減少した。

 旅客部門においても格安航空会社であるスカイマークエアラインズ、air doなどが開業したため、競合交通が増加した。加えてブルートレイン北斗星、瀬戸なども新型車両を導入、快適性・所要時間を向上させるようだ。こうなってくると当然カーフェリー業界においても状況が厳しくなってくることは容易に想像できる。

 現に東京から大洗を経由、苫小牧を結ぶ航路を運行しているブルーハイウェイラインも1999年4月から東京~大洗間で旅客の取り扱いを休止する予定だし、東京から釧路・十勝をダイレクトに結んでいる近海郵船も1999年9月から旅客の取り扱いを廃止する。この不況が長距離フェリー業界に、大きな負担をかけているのは明らかである。陸上でもリストラという言葉が流行病のように叫ばれているが、フェリー業界に関しても、1998年度は航路そのもの・乗員・サービスなどを大幅ににリストラせざるを得なかった悲しい年だったようである。

 太平洋フェリーは、そんな中でも変わらずに高品質・高サービスの旅客サービスを守り続けている会社である。同社のフラッグシップでもある「いしかり」は先回のレポートでもお伝えしたように、クルーズ客船に匹敵するようなすばらしい旅客重視の船内設計だし、そのすばらしい船のハードに加え、ソフト部分-乗組員たちのサービスも天下一品である。この不況の中、これだけの高サービスをっも守り続けるのはさぞかし大変なことだろう。もちろん乗船した1999年1月21日苫小牧発名古屋行きは閑散期のただ中であるとはいえ仙台から名古屋間ではわずか50名ほどの乗客しか乗船していなかったのである。

 それでもレストラン「カリブ」、コーヒースタンド「ヨットクラブ」、バー「カサブランカ」、スターライトラウンジでのスターライトショーは前回レポートの時と同様、高品質なサービスが引き続き提供されていた。太平洋フェリーに関しては、少なくとも旅客サービス・航路面においてはほとんどリストラされていないようにも見受けられる。敢えて先回の乗船時と異なった点を挙げるなら、レストラン「カリブ」での全食事がバイキング形式に変更されたことぐらいだろう。ちなみにバイキングは朝食900円、昼食1,100円、夕食1,800円である。決して安い金額ではないが、料理の質・量から考えると決して悪くはない。

 あちこちのバーやスナックで「いしかり」をはじめとする太平洋フェリーのサービスを絶賛する声が多く聞こえた。長距離トラックの運転手さんたちも「いしかり」には大変ご満足のようである。ほとんどの人が、これからも変わらず「いしかり」を利用したいと一言残してバーやスナックを去っていった。この大不況のなかでもこれほどまでに旅客に支持され、大切に思われているフェリーなのである。

事実、私もこの大不況の中で変わらずサービスを守り続けている「いしかり」、太平洋フェリーの姿勢には深く感動した。私の場合もこの船を使うためには横浜に帰るのに名古屋周りで帰らねばならないため決して交通の便のいい航路ではない。それでもまた名古屋周りで、できれば往復「いしかり」を利用したいと思うほどなのだ。

これからもずっと「いしかり」のすばらしいサービスが続くことを願っている。「いしかり」は決して高い運賃ではない。名古屋から苫小牧まで2等で行くとたったの10,200円(季節割引運賃)である。一等でも20,400円(季節割引運賃)で乗船できる。これらの運賃はクルーズシステムなどのクルーズ専門旅行会社のパックを通して買うと、往復でも30,000円前後で乗船券を入手することができる。ただ東京近辺の人が、北海道に行くのに名古屋を回ってというと、名古屋に出るまでに新幹線だと10,000円前後かかってしまう。そう考えるとやはり東京近辺の大抵の人は気が引けるだろうが、ここで是非、「いしかり」と太平洋フェリーにかけてほしい。きっとその部分でのリスクを考慮に入れたとしても、下船するときには「乗って良かった」と思えるはずだ。

記事の冒頭でも紹介したとおり、最近の不況を凌ぐのは決してたやすいことではない。荷物の移動が大きな収入源であるフェリー会社もその痛手を受けないわけがない。しかし、その中でもどうにか「いしかり」をはじめとする太平洋フェリーの船隊3隻はこれからも健在・かつすばらしい船旅を提供し続けていっていただきたいものだ。

ところで、飛鳥、にっぽん丸、ふじ丸など客船でのロングクルーズの最近の人気は絶好調らしく、決して金額が安いわけではないにも関わらず満席のことも多々あるようである。そのようなクルーズに比べると、やはり「いしかり」もフェリーであるから確かに多少クルーズの格は落ちる。(たとえば服装、ディナーがバイキングスタイルであることなど)しかし、それらの高級感-いわば格だけがクルーズなのではない。海を眺めながら悠久の時の流れを感じること-このことこそが本来のクルーズの醍醐味なのではないだろうか?であれば必ずしもクルーズ客船にこだわらずとも「いしかり」のようなすばらしいフェリーであれば十分クルーズを楽しめるはずである。*

行きたかったクルーズが満席であったなどの理由で、海の旅すべてを断念する前に、是非クルーズフェリー「いしかり」によるクルーズを第二候補として考えてみてほしい。「いしかり」は決して乗船者の期待を裏切らないからだ。しかも金額はクルーズ客船のそれと比べるならおそらく2~3分の1で楽しむことができるのである。

*この文章は決してクルーズ客船の旅を否定しているわけではありません。それがすばらしいものであることは周知の事実として「いしかり」によるクルーズをも提案しているのです。クルーズ客船の値段のわずか2~3分の1で十分クルーズの醍醐味が味わえる太平洋フェリー、そしてフェリー業界を応援しようではありませんか。



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