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「さんふらわあ とさ」~黒潮旅情
写真・文:idyllicocean


高知への国道沿いに設置された看板
東京~那智勝浦~高知という観光航路にブルーハイウェイラインの「さんらわあ とさ」が二日に一便というダイヤで走っている。四国の一周を終えて高知から東京へと帰途につく時、「とさ」に乗った。この船は1973年竣工というベテランで元日本高速フェリーの「さんふらわあ 8」である。

この<東京・勝浦・高知>航路は日本高速フェリーがはじめて「さんふらわあ」を就航させたときから存在している立派な観光航路で、当初は「さんふらわあ 5」、「さんふらわあ 8」のニ船がデイリーで就航していた。

松山方面から、高知方面に向かう国道33号線をゆくと、高知港に近づくにつれ「さんふらわあ」の看板が目に入る。それもカラーで描かれた立派な看板だ。当時、日本高速フェリーが自信をもって世に送り出した豪華フェリーへの意気込みが感じられる。

高知港フェリーターミナルは高知駅からタクシーで15分ほど、路面電車の桟橋通五丁目駅から東に三百メートル程のところにある。桟橋通五丁目駅からみて正面に大阪高知特急フェリーの「ニューかつら」が、そして右側に東京行きの「さんふらわあ とさ」が停泊している。高知港のブルーハイウェイラインターミナルはプレハブ式の小さな事務所のようなターミナルだが、この高知港の桟橋の前には何本ものやしの木植えられており、南国らしく土佐の高知の雰囲気を演出している。


高知港に着岸中の「さんふらわあとさ」
乗船手続きを終えて高知港の岸壁にに停泊している「さんふらわあ とさ」の写真を撮る。なにしろ全長185m、幅24m、約13,000トンもの巨船だけに写真のレイアウトも難しい。いい写真を撮ろうとして苦心しているうちにもうトラックや乗用車での乗船が始まった。6.7mもの大型トレーラーやトラックが前部右舷のランプウェイから船内へと入って行く。トラックに描かれている広告のサインを見るかぎり、東京行きの荷物には高知県産の野菜類が多いようだ。

徒歩乗船の乗客はターミナル前の乗船タラップを使って乗船する。タラップの階段は急なのでお年寄りや体の不自由な方には少しきついかもしれない。それはともかくタラップを上がって船内に入ると案内所前の広々としたエントラスホールに出る。今晩の宿、グリーン寝台の船室は案内所横を船首方向に進んだところにある。このグリーン寝台船室は、他社のフェリーでいうところの二等寝台なのだが、二人部屋から四人部屋となっていて個室感覚の部屋となっておりファミリーでの利用には都合がいい。ただし部屋の入り口に鍵があるわけではなくカーテンだけになるので、荷物の管理には少し気をつかう。今回の船室は529号室。荷物を置いた後、船内探検に出ることにした。

エントラス後方の階段を上がると売店の前に出る。そしてその斜めむかいがゲームコーナー、その奥にスナック、レストランと続く。スナックの前あたりからは水密扉を経て向こう側に送迎デッキが続く。デッキをさらに後方へと歩いて行くとレストランの大きな窓を片手に見ながらサンデッキ、そして本船自慢のプールに出る。そして階段を幾つか上がると大きな煙突やマストのすぐ近くまで行ける。売店ではオリジナルさんふらわあグッズや週刊誌、おみやげ、お菓子類等なんでも置いてあり、高知に本店をもつさんご専門店の「さんふらわあ店」の名で高知県土産のさんごも陳列されている。

高知出港は17時50分。夏の時期はまだ多少明るい中での出港となる。エル字形に曲がった桟橋に停泊している大阪高知特急フェリーの「ニューかつら」を背に「とさ」は回頭して船首を太平洋へ向ける。高知港は比較的市街地に近いところにフェリーターミナルがあるので、操船には気を使うことだろう。浦戸湾内に浮かぶ玉島や衣ケ島を右に見ながら二十分ほどかけて南下し、大きく左に舵をきると正面に浦戸大橋、そして橋の向こう側右側には坂本龍馬で有名な桂浜に出る。この頃、船内放送が入り、本船が現在桂浜沖を航行しており、右側に見える大きな像は坂本龍馬像であることがアナウンスされた。それに加えてレストランの営業時間、大浴場の開放時間、明朝未明の那智勝浦港寄港時刻などが続いて説明された。放送によると東京港までの気象状況はおおむね良好であるとのこと。

船尾にある「レストランさんふらわあ」はカフェテリア方式となっていて好きなものを順にトレイにとってゆき望みの席に座って頂く形式。トレイはプラスチック製ですこし貧相だけど仕方がない。船上だけあって、一つ一つのフードアイテムの値段は若干高め。サラダとハンバーグステーキとご飯を今晩の夕食としたが値段は千円を若干超えた。仕入れた食事を載せたトレイをもって大きな窓際の席に陣取った。窓は大きく気持ちいいのだが、窓全面に無情にも油がこびりついていて・・・残念。ただレストランの構造は豪華なつくりになっていて、ステージも完備された大きなシアター形式となっている。就航時は「トロピカルショー」などのイベントも行われていてクルーズ船のような雰囲気を醸し出していたようだ。先ほどから太平洋に出たため、船はゆっくりとローリングをはじめた。


船上から見た伊豆大島
食事が終わってから、腹ごなしに風呂に入ることにした。この船のサウナ付大浴場は地下2階にある。後部中央のエレベーターで地下2階まで降りると浴場は目の前だ。このエレベータはいかにも業務用といった感じでディーゼルの匂いがする。船の底に近い部分に下りていく感じなのであまり気持ちよくはないのだが、浴場自体は広々とした大きな浴場でサウナも完備されている。大浴場の階をさらに下ると広々とした体育室があり、案内所で申し出れば有料で卓球台などを利用することができる。

案内所前の階段を上がったフロアの船首方向最前部にはラウンジがある。通常この部屋は施錠されていることが多いのだが、今回は施錠されてなくラウンジの様子をみることができた。確かに部屋の雰囲気は古いのだが、25年以上も前にここまで豪華なラウンジをもった船が建造されていたとは驚きである。ただ、このラウンジをはじめ、レストラン階上のグリルなどは現在はあまり活用されていないようで残念である。ひととおりの船内探検を終えてからゆっくりと就寝することにした。

ブルーハイウェイラインの「さんふらわあ」シリーズは南は九州の志布志、北は北海道の苫小牧まで計6隻のフェリーが走っている。このうち大阪~志布志航路では今年3月と8月に新造船に代替する。さらに大洗から苫小牧航路にも今年12月に新造船が就航する予定だ。この高知航路の「さんふらわあ とさ」は竣工当時、日本で最も豪華な大型高速フェリーとして、来島どっくで竣工した。就航当時は、「さんふらわあ 5」(現さんふらわあ おおさか)共に、高知航路を走っていたらしいが同航路の便数削減により同船が大阪~志布志~鹿児島航路に移った為、「とさ」は単船で二日に一便のダイヤとなった。

浦賀水道をゆく「さんふらわあ とさ」
浦賀水道をゆく「さんふらわあ とさ」
翌日朝、目覚めると、「とさ」は御前崎沖を航行していた。天気が良かったので海がとてもきれいに見える。時折「飛び魚」が船に沿ってジャンプしたり、海鳥たちが甲板で休んでいたりしてリラックスした時間を過ごすことができた。朝食を食べサンデッキでひなたぼっこをしていると、「とさ」は伊豆諸島を右舷に、富士山を左舷に見ながら航海している。伊豆大島の灯台や民家が確認できるほどの距離だ。

浦賀水道を超え東京湾にはいると、海の色が深い紺青色から汚い緑色へと変わっていった。東京や横浜の水は産業廃棄物で汚れている。羽田空港を左舷に通過すると、もう東京ターミナルは目と鼻の先だ。「とさ」はスピードを徐々に落として旋回し有明南ターミナルに着岸した。

 ああ、ロマンのある船の旅だった。伊豆諸島見物はできたし、海上から富士山を見たし・・・・ターミナルの待合室で一時間半程くつろいでいると北海道から同ブルーハイウェイラインの「さんふらわあ えりも」がすぐそこを走っているではないか。急いで岸壁に行ってみると「えりも」は東ターミナルにゆっくりと着岸していった。「えりも」からもぞくぞくと乗船客が降りてきた。東京有明ターミナルに2隻並んだ「さんふらわあ」姉妹たちは南や北の様々な思い出を乗せて今、東京の岸壁で羽を休め、団らんを楽しんしているようだった・・・・・・・・。



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